君の名を呼んで
そこで私はハッと気付いた。
ここ、城ノ内副社長の家だった!完全に忘れてた!!

携帯から漏れるすずの声はかなりのボリュームだったし、彼には私達の会話は全て聞こえていたんだろう。

「なるほど、ねぇ」

『えっ、なに今の副社長の声!?えっ、雪姫ちゃんこんな時間に副社長と一緒なの?まさか』

電話の向こうで、いきなりすずのテンションが変わる。

「えっ、いやあの」

『やあだあ、デート中なら言ってよ雪姫ちゃ~ん。邪魔してごめんねぇ!』

「えっ、すず……」


“プーップーッ”

切られた。

ニヤニヤしているすずの顔が想像つく。
えぇ~っ。

「お前そんなとこまですずの世話してやってんのか」

城ノ内副社長が私にコーヒーを手渡しながら言う。
馬鹿にしている様子はないけど、偉そうに話していたのを見られて、めちゃくちゃ恥ずかしい。

「女優の仕事してなくたって、私はすずのマネージャーですから」

そう言ったら、城ノ内副社長は意外にも、柔らかく目元を緩ませた気がした。


「お前のそういう、あいつらを大事にするとこはすげぇと思うよ」


嘘。
副社長に褒められた?

「城ノ内副社長……」

「俺はあいつらを商品と思ってるからな。
最高の状態で最高の舞台に立たせてやる。
それが俺の仕事だ」

ふ、と自嘲気味に言う彼。

何故かその顔が寂しそうに見えて。
笑って欲しい、なんて思っちゃったりして。
私は冗談めかして言う。

「城ノ内副社長に褒められるなんて。なんだか信じられないことばかりです。……夢ですかね」

……言ってるうちにホントにそんな気になってきた。

「どうしましょう、副社長!夢ですか、これ!」

思わず両手でパチンと頬を叩いてしまう。

「痛い!!」

「……馬鹿かお前は」
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