君の名を呼んで
「あれ?朔」

藤城に警告していた俺に、掛けられたのは雪姫の声。
見れば廊下の向こうからこっちにやって来るところだった。
俺に微笑む。

「あ、そか。今日はドラマ撮りだったね」

藤城すずの復帰で俺の担当は外れたのに。
今でもちゃんとスケジュールをチェックしててくれるんだ。
そういう、彼女の一生懸命さが可愛いと思う。

……城ノ内さんに渡すんじゃなかったな。

そんなことを思いながら廊下で突っ立っていた俺達の横を、ゾロゾロと人が通って、その中の一人が驚いたように止まった。


「あれ?雪姫ちゃん!?」


雪姫は振り返って、目を見開いた。

「ーー下野さん……?」

「いや~元気?久しぶりだね」

まるで叔父や父親のような顔をして、親しげに雪姫の肩を叩く男――。

「よく私だっておわかりになりましたね……」

雪姫が戸惑いながら聞いている。

「そりゃあわかるさ」


あれ?この人、どこかで見たことがあるような。

「たまにはうちの事務所にも顔出してよ」

「……はい。ありがとうございます」

雪姫は苦笑いした。
少しだけ、切なそうに。

彼らが去ってから、あの顔を思い出した。


「今のアクション監督だよね。有名なスタントマンの。雪姫、知り合い?」

「……うんまあ」

おかしいな。
うちのタレントでスタントチームに関わるような仕事をしたやつなんかいるか?
それに随分と親しげだった。


「ゆ……」

「雪姫ちゃんっ!仕事仕事〜!!」

問い掛けようとした俺を遮って、藤城が雪姫の腕を引く。


「じゃあ失礼します、先輩っ!」

『私のマネージャーなんだからねっ!!』という目で睨んで、藤城は雪姫を連れて行ってしまった。
なんだか機嫌の悪い猫みたいな子だ。

あ、美倉舞華のことを雪姫に警告するのを忘れた。


「大丈夫かな、雪姫……」


なんだか嫌な予感がした。
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