君の名を呼んで
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「梶原さん、あなた皇の名前を呼んだんですって?馬鹿なことしたわね」

その日テレビ局で会った舞華さんは、勝ち誇ったように言った。
ああ、会いたくなかったな。なんて思って、私はちょっとだけ肩を落とす。

「……え?」

私の隣に居た朔が、驚いたように私を見下ろした。
彼には何も言ってなかったのだから、当然だろう。
朔の真偽を問う視線を、避けるように曖昧に笑った。

「皇を呼べるのは私だけよ。対抗意識でも燃やしたの?」

舞華さんの言葉に、私は静かな視線を送る。

「嫉妬してないって言ったら嘘ですけど。
ならどうして舞華さんはあの人を救ってあげないの?」

私は彼の名前を呼べる特別な一人になりたいわけじゃない。
彼に、救われてほしいんだ。

「……私は副社長に気付いてほしいんです。もう苦しまないで欲しいんです」


私の言葉に舞華さんは顔を真っ赤にして。

「皇を苦しめてるのはあなたじゃない。……やっぱり、あなたムカつく」

そう吐き捨てて去っていった。

副社長が、舞華さんに喋ったのかな。
彼女がまた、彼を抱きしめたんだろうか。
考えたくない……。


それまで黙っていた朔が、私に問い掛けた。

「雪姫、城ノ内さんになんて言われた?」

「なんて、って、なにも……」


なにも。

そう言いかけて、気づく。
どこか実感の無かった、現実に。


蘇る冷たい声。

合わない視線。

鳴らない携帯。


『出ていけ』


「あぁ私、振られたのか……」


ふとそんな言葉が漏れて、自嘲気味に笑った瞳から、涙が落ちた。
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