君の名を呼んで

会社にいればイヤでも彼が目に入る。

けれど仕事の話以外では徹底的に無視されて、私はもう何日も城ノ内副社長と話をしていない。
毎日の様に交わされていた、私と副社長の喧嘩半分、冗談半分のやりとりが急に無くなって、訝しむ社員も居たけれど、出張中の社長の代わりに社長室に籠もっている彼に、ああ忙しいからかと思ってくれたようだ。

今日も視線すら交わることの無い、城ノ内副社長の端正な顔をガラス越しに見て、私は胸を締め付けられた。


後悔なら、嫌ってほどし尽くした。
黙っていれば傍に居られた。

でも……。


“ブーッ”

私の携帯が震え、通話ボタンを押した瞬間に

『雪姫ちゃん!?』

悲鳴じみたすずの声。

「どうしたの?」

何かあったのだろうか。今日はオフのはずなのに。
ひどく混乱しているすずを落ち着かせるように聞く。


『あ、アタシ美倉さんに呼ばれて、プロデューサー紹介してくれるって……けど、ホテルの部屋取ってるって……!』

不穏な成り行きに、私は眉をひそめた。

『どうしよう、これってそーゆーことでしょ?イヤだよ雪姫ちゃん!』

「プロデューサーって?」

すずから相手の名前を聞き出す。


やられた。
名前が挙がったのは、うちが楯突くなんてもってのほかってくらい、大物プロデューサーだ。
機嫌を損ねたらどんなことになるか、考えただけでも恐ろしい。

でも、すずにそんな真似させられない。
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