君の名を呼んで
入れ替わるように社長の真野が入って来て、どさりと荷物を下ろした。
出張から戻ったらしい。

「あ~城ノ内、また俺の場所を」

「もうすぐ俺の椅子になる」

軽口で返したが、奴は直ぐに俺の不機嫌を見抜いた。

「城ノ内……何かあった?」

一瞬話すべきか迷ったものの、誰かに聞いて貰いたかったのか、俺は口を開く。


「名前を、呼ばれた。……雪姫に」


真野は大きく目を見開いて――けれど固い表情で聞いてきた。



「城ノ内、まさか彼女を拒絶したりしてないよね」

真野が何故わざわざそんな事を聞いてくるのか、俺にはわからない。


「なんだよ今更。いつものことだろ」

俺の返答に、真野は冷たくこちらを睨んだ。
無言で責めるその表情は、日頃温厚な真野から考えつかないほどの迫力で、つい反論したくなる。


「何にも知らないくせに、まっぴらなんだよ」


「知ってるよ」


……は?


「梶原ちゃんは全部知ってる。俺が話したから」


真野の言葉に、思考が止まる。
彼はますますキツく俺を睨んだ。

「お前、何も聞かずに彼女を拒否したのか?」

「聞く必要なんかないだろ」


知っていた?

知っていて、なのに呼んだ?
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