君の名を呼んで
「全部知ってるなら尚更……」

「馬鹿かお前は!
ガキ臭いこと言うのもいい加減にしろ!!」


真野が俺を怒鳴りつける。
その目は明らかに俺を責めていて。

こいつが他人のことで本気で怒るのを初めて見た。


「梶原ちゃんは他の女とは違うんじゃないのかよ!?
お前の全部を知ってて、それでも皇と呼ぶならお前を全部受け入れる覚悟があるってことだろ!?
そういう子だって俺ですらわかるのに、お前は彼女の何を見てるんだよ!!」


『聞いて下さい』


あの日の雪姫の泣きそうな顔が。
震える声が、耳に蘇る。

聞いて、と。
何かを伝えようとしていたのに。

逃げたのは、俺――。


「城ノ内、過信してないか。
梶原ちゃんなら、どんなに傷つけてもお前を好きでいてくれるって」

怒りを込めて低く響く真野の言葉に、頭を殴られたような気がした。


「いい歳して甘ったれんな。
梶原ちゃんを泣かせてばかりで、なにが恋人だ。
あの子はお前も、お前の大事なものも、全部守ろうとしてるのに」

「真野……」


なんでお前が、悔しそうな顔するんだ。


「……イイ歳とか余計だろ。
だいたい今までは一度もそんなこと言わなかったじゃねぇか」


そんな風に返したなら、真野は少しだけ表情をゆるめた。

「女を切って、お前がそんなに落ち込んでるのは初めてだからだ。自分でもわかってるんだろ、梶原ちゃんは特別だって。
本当に、あの子を手放せるのか?」


その言葉に、茫然と立ち尽くす俺。

大事なことを、掴みかけた瞬間――


デスクの上で、携帯が鳴った。
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