君の名を呼んで
これは非売品

「雪姫ちゃんっ」

都心の高級ホテル。
私には縁のない、キラキラした場所。なのにちっとも嬉しくもワクワクもしない。
携帯を片手にロビーでウロウロしていたすずは、私を見つけていまにも泣きそうな顔で駆け寄ってきた。

「トイレとか言って時間稼ぎしたけど、良かったの?」

「すず、先に帰りなさい。一人で帰れるよね」

諭すように言えば、すずは目を見開いた。

「だって、雪姫ちゃん」

「大丈夫だから。私に任せて」

微笑む余裕は無かったけれど、まっすぐすずを見つめて言えば、彼女はおずおずと頷いてホテルを出て行った。
息を吸って、足を踏み出す。


彼女達が食事をしていたというレストランへ行くと、舞華さんとプロデューサーが奥の席に居るのが見えた。
談笑しているそちらへ近付く。


「申し訳ありません。藤城すずのマネージャーで、梶原と申します。
すずは門限があるので帰しました。まだ未成年ですので」


固くなりそうな声を意識して抑えて、こちらを見上げるプロデューサーへそう伝えれば、彼は不満そうに私を見た。

「はあ?僕はすずちゃんが会いたがってるって聞いて、わざわざ時間を空けたんだけどね。ふーん、BNPさんはそういう方針なの?」


私は一瞬舞華さんを見た。
彼女はニヤリと私を嘲笑う。

それでこの事態はやっぱり彼女の策略なのだと確信した。

すずまで巻き込んで、真意は私への嫌がらせ?
会社――城ノ内副社長にまで害が及ぶかもしれないのに。
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