せんせい、知ってます。
男子も女子も、期待に目を輝かせ注目した。
年齢も、性別すらわからない。
知らされているのは国語科の先生だと言うことだけ。
「イーケメン、イーケメン」
後ろで春乃が小声でイケメンコールを始めた。
となりではなっちゃんが美人コールをしている。
「…………」
私はごくりと息を飲む。
ケイコ先生が、黒板に名前を書き始めた。
三橋、と書いたところで、教室の空気ががらりと変わった。
新しい副担任が入ってきたからだ。
「はい女子たちー。先生がイケメンだからって騒ぐなー」
ケイコ先生がそう言うも女子たちの歓声は止まらない。
確かにイケメンの部類に入ると思う。
首あたりまで伸ばされた黒髪は、やや癖っ毛なのかカーブがかかっている。
色白くきめ細やかな肌、大人っぽく色っぽい眼差し。
着ているシャツは馴染んでいない。
「やったよ菜摘。イケメンだ」
「ちっ、男かよ」
「しかも夏希とは違って長身」
「黙れ!」
春乃となっちゃんの定番会話も右耳から入りすぐに左耳から出て行ってしまう。
私は新しい副担任に、ただならぬ違和感を感じた。
どこかで見たことがあるような……。
「ったく。ごめんよ、三橋先生。このクラスの女子は肉食獣だから気をつけた方がいいよ」
「あっ、ケイコ先生ひどーい!」
いつのまにか書き終えてあった黒板の名前。
三橋遼太。
こんな偶然ってあるのだろうか。
いいや、人違いかもしれない。
世界にはそっくりさんが三人はいると言うし、何しろ心が受け付けない。
「三橋遼太です。このクラスの副担任になりました」
にっこりとした笑顔。裏があるに違いない。
やっぱり、遼くんではないよね。
面影はあるものの、遼くんは素直に笑う。
あんなくどい笑い方をしない。
結局HRでは女子の歓声がひどく、遼くん似の先生の自己紹介ができなかったため、一時限目が臨時で学活となった。