せんせい、知ってます。
「はいはいはーい!先生彼女しますか!?」
一時間目の臨時学活は、教室が女子の黄色い声で埋めつくされた。
質問をしているのは全員女子で、男子はみんなつまらなそうにしている。
となりのなっちゃんも、頬杖をついて先生を軽く睨んでいた。
「それは個人情報だな」
「んえー。つまんなーい!」
チャラくてなんでも話す先生かと思いきや、結構口は堅いようだ。
背後で春乃が凄まじい勢いでいろいろな質問をしているけど、私は黙って先生を見ていた。
やっぱりすごく似てるよなぁ。
だけど先生は私に目を止めることもなく、飛び交う質問に答えている。
もし先生が遼くんだったら、私に気付くはずだ。
……いや、最後に会ったのってだいぶ前だよね。
遼くんが引っ越した日だから。
「おい」
「ん?」
「やけに静かじゃん」
「うん。ちょっとね」
説明が面倒だから、上手い具合に言葉を濁した。
「なんだよそれ」
「なんでもないっ」
「嘘つけ!言ってみろ」
まったく。小さいくせに態度は大きいんだから。
こうなるとなっちゃんは一歩も引かない。
私が反抗をしたら、なっちゃんは倍の勢いで反抗をしてくる。
そっちのほうが面倒だと思い、話すことにした。
「なっちゃん、遼くんって覚えてる?私のとなりの家に住んでたお兄ちゃん」
「あー……?なんとなく覚えてる」
その程度でも無理はない。
なっちゃんと遼くんは多分一回か二回ぐらいしか顔合わせがないからね。
「気に食わないヤツだったってことは鮮明に覚えてる」
「……なっちゃんよりいい人だよ」
「あ?」
「んーん。なんでも。でね、先生遼くんに似てない?」
「似てる。気に食わないところがな!」
シャーッと野良猫のように先生を威嚇し始めた。
もっとも、相手にされていないけどね。
なっちゃんに話したのは時間の無駄だったみたい。
真相は掴めないまま、一時限目が終了。
休み時間も、先生は質問攻めにされていた。
うーん……。
確信が持てないし、声をかけるのはやめておこう。
「ったく。教師はアイドルじゃねーぞ」
なっちゃんの嫉妬も続いていた。
なっちゃんからしてみれば、あの先生は嫉妬の対象でしかないんだろう。
「同じ黒髪なのにね」
「今日美容院行って染めてやる」
「え!?何色にするの!?」
「そうだなー。茶色だとお前と被るし……お前の茶色より明るめの茶色にするわ」
「私のこれ地毛だからね?」
「知ってる」
私は生まれつき髪が茶色い。
お母さんの遺伝だ。
生まれつき茶髪からすると黒髪はかなり羨ましい。
「……なっちゃんさ、茶髪にしたら童顔が際立っちゃうよ」
「うっさい!俺はここからが成長期なんだよ!」
「はは、そうだな。牛乳でも飲んで伸ばせ」
突如として、私となっちゃんの間に割って入ってきた声。
先生だ。
先生は、なっちゃんにとっては憎たらしいであろう大人な笑みを浮かべている。
「お前らが保健委員だよな。これ、係表」
差し出されたプリントを、不機嫌オーラ全開のなっちゃんの代わりに受け取る。
「あ、ありがとうございます」
「いーえ」
この匂い、やっぱり遼くんに似ている。