冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
紬さんの勢いも私を困らせる要因だけれど、それより驚いたのは、紬さんが私との結婚を全く嫌がっていないと思えて仕方がない事だ。
お互いの家が決めたと言ってもおかしくないこの結婚。
初めて顔を合わせたお見合いの席で、今は私と結婚する気はないとはっきりと言っていたのに、どうしてなんだろう。
両家の後押しという強力な援護があるとはいっても、彼の仕事は滞っていないのだろうかと心配してしまうほど結婚式の準備に、全力を注いでいる。
というより、彼の優先事項第一位は私との結婚だと思えて仕方がない。
仕事が忙しいはずなのに。
「紬さん、私……」
入籍すら済ませているのに、目の前の紬さんの事が何もわからなくて不安で仕方ない。
だから、結婚式の準備よりも、もっと紬さんと知り合う時間が欲しい。
そう思って、話しかけるけれど
「大丈夫だ。瑠依がその日の事を幸せな記憶として残せるような、思い出いっぱいの披露宴にするから。俺に全部任せておけ」
「あ、あの、そうじゃなくて……」
思わず紬さんが着ていたタキシードの襟元をつかむと、ドレスに足元を奪われて、躓いてしまった。
そんな私の体を支えるようにその腕に私を抱き止めてくれた紬さんは、
「大丈夫だ。安心していいんだ。瑠依は、俺の横で笑っていれば、それでいい」
私の耳元にそんな言葉を落とした。