冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
とはいっても、梢にはどうしても受付を頑張ってもらわなければいけない。
「私は、梢と恵にお願いしたいんだ。会社で一番私の事をわかってくれてる親友だし、他の人に頼めない」
「でも、向いてないような気がする……人見知りだし」
「大丈夫。向こうの二人は本当にいい人だから安心して頼ればいいよ。しっかりしてるし優しい人たちだよ」
「でも……」
「じゃ、受付の代わりに披露宴で歌でも歌う?」
からかうように言う私に絶句した梢は、何度か瞬きを繰り返した。
「う、歌なんて、気絶しそうだよ……」
「でしょ?だから、受付をお願い。梢も恵も、かなりの美人だから、受付で笑顔を振りまいていい男をゲットしちゃえば?」
くすくす笑う私に、力のない笑顔を向ける梢は、何度も首を横に振って私の言葉を拒んだ。
そこまで強く嫌がらなくてもいいのに。
紬さんの会社の人や、学生時代からの友達もたくさん来るから、選び放題なのに、もったいない。
「梢の結婚の時には私が受付でも歌でもなんでもするから、今回はよろしくね」
私の言葉にしばらく泣きそうな顔をしていた梢は、どうにか頷いてくれた。
「じゃ、お願いね。当日は、早めに来てね。春木さんと山口さんに紹介するから」
「え……紹介……」
「そんな緊張しなくていいよ。『今日はよろしくお願いします』って頭下げればいいだけだよ」
「そ、そうだね……」
ほっと大きく息を吐いた梢は、それでもどこか緊張感を身にまといながら、手元に持っていたコーヒーを飲んで気持ちを落ち着けている。