冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




結婚後、紬さんと暮らす新居へは既に引っ越し済み。

セキュリティー面を第一に考えて紬さんが選んだマンションは、1階ロビーに警備員数人が常駐しているし、住人専用のエレベーターに乗るためには指紋の認証とパスワードの入力が必要だ。

新居は最上階の20階。

各階3戸あるけれど、20階は3戸とも紬さんが購入したらしい。

言葉にしたくないほどの価格だと思うけれど、聞くつもりもない。

このマンションの豪華さと厳重なセキュリティによって、紬さんが背負わなければならない会社の大きさを実感しただけで十分だ。

20階に行くための直通エレベーターもあり、このマンションでも別格扱いの最上階。

ここまで豪華なマンションに住むなんて面倒だな、と呟いた私に。

セキュリティーに完全はない、と紬さんの家族は皆で口を揃え強調するし、私のおじい様も「何かがあってからでは遅いから」と真面目な声で私を説得した。

『将来の社長って言えば聞こえはいいけど、背負うべき負の部分も多いから。それを考えると、嫁にきてもらえる事が嬉しくもあるし申し訳なくもある』

紬さんのお父様も、私をいたわるようにそう言ってくれた。

お見合いの時には、製薬会社で働くサラリーマンだと思っていた紬さんは、近い将来その会社の社長となる。

紬さんのおじい様が興した会社を三代目として継ぐ事は、生まれた時からのお約束。

今は紬さんのお父さんが二代目社長として業績を上げていると聞く。

『三代目って、何かと注目されるから、気が抜けないんだ』

ほんの少しお酒が入った紬さんがぽつりと呟いた言葉には、かなりの重みと覚悟が感じられた。



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