冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
紬さんの親族の方々が私を受け入れ、心配してくれるだけでは、不安をゼロにはできないであろう不安定な未来を、前向きに受け止められる。
だから、こうして厳重なセキュリティを備えたマンションに新居を構えることも理解できる。
……とはいっても。
肝心の旦那様、紬さんと私の関係がどうなっていくのかは、まだまだ未知数だ。
確かに、私との結婚を望み、忙しい仕事の合間、というよりも忙しい結婚準備の合間に仕事をしている状態の中で
『早く指輪をはめて拘束したい』
嬉しそうに話す表情は幸せそのもので、私を心から大切に思っているとわかる。
結婚式の準備も、両家の会社の人たちを巻き込み総動員で全力投球。
お料理も、席次も、入退場の曲も、祝辞や余興の順番までも、全て決定されていて、私はただただ報告を受けるだけだ。
当日だって、すっぴんのまま会場に行けばそれでいいらしく、紬さんがメイクさんと相談して決めた髪型とメイクに仕上げられるのを待つだけだと、上機嫌で言っている。
新婚旅行だって彼が決めて、どこに行くのかは知らされていない。
『行ってからのお楽しみ』
パスポートを取り上げられた事から、海外に行くのだろうとは思うけれど、一体どこに連れて行かれるのかわからない。
私としては、どこか南国リゾートでゆっくりとしたいんだけど、紬さんの趣味や、何に興味があるのかもわからなくて、行先も何も、全く見当がつかない。
私は妻だというのに、紬さんの事を何も知らない。
何も知らないのはお互い様なのに、紬さんが私を見つめる瞳だけはいつも温かくて優しい。