冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
気が強くて反抗的な、それでいて体全体で弱さを隠そうとするかわいい女。
「ほんと、可愛い……それにしても一体どうしたんだ?」
何度電話をしても出ない瑠依が気になって仕方がない。
「まさか親父が呼び出したのか?」
ありえそうで、むかつく。
親父にしてみれば、ようやく仕事の第一線から退き自由に使える時間が増えた解放感に浸っているんだろうけれど、代わりにその負担を全て背負う羽目になった俺は、どこにはけ口を見つければいいんだ?
社長に就く事への覚悟なら昔から少しずつできていた。
それに伴う責任と窮屈さも、両親を見ていて理解しながら育ってきた。
だから、というのは甘い言い訳とも言えるが、その時が来るまでの猶予期間として、それなりに遊んでもいた。
妻となった瑠依に聞かせられない行状も少なくない俺の過去は、褒められたものではない。
女性に対する気持ちも本気ではなく、俺に対して、期間限定の、割り切った付き合いで満足できる女だけを選んで遊んできた。
遊びで付き合うと言えば言葉は悪いが、俺が背負う未来を、ともに背負えるだけの強さを持っている女に出会えなかったのも事実だ。
社長という、経済的にも社会的にも強い立場にいる一方で、危険や捨てざるを得ない平凡な幸せがあるという事実をも受け入れられる女には出会えなかった。
『お前には女を見る目がない』
ため息を吐き、呆れた声で呟く親父の言葉にも、悔しさは感じても頭から反論する事はできずにいた長い時間。
母さんという、親父にはもったいないほどの上等な女を選んだ親父の言葉の重みを受け止めながら、意味のない時間を過ごしてきた。