冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
子供にその姿を恥ずかしげもなく見せる親に反抗する気持ちがないわけでもなかったけれど、当然のようにふたりで寄り添い、俺には『いつか紬の大切な人ができたらその人といちゃいちゃしなさい』と言われては、そんな気持ちも萎えてしまう。
その姿は結婚して30年以上経った今でも変わらないままだ。
そして、そんな二人を見ながら育ってきた俺には、それを羨む気持ちが芽生えたと同時に、会社を背負いながら幸せな家庭を築くなんてこと、到底無理なんじゃないかと思うようになっていた。
母さんのような女性がそうそういるとは思えず、諦め混じりに仕事に全力を注ぎ、どうにか生きていた。
仕事に集中し、周囲から『三代目』だという先入観で見られないように必死で働いてきた。
その合間に、お互いに割り切った都合のいい女と付き合っては気持ちを保っていた。
そんな日々の中。
両親のように、愛する女と幸せな家庭を築きたいと願ってきた俺は、人生最大の選択を迫られる事になった。
それが、瑠依との結婚だ。
ふっと、小さく息を吐いて、
「この選択は、間違っていなかった」
こぼれる言葉に、自分で苦笑する。
瑠依の事を密かに調べ彼女の人となりを知っていくうちに、俺の心は彼女に持っていかれた。
政略結婚という前提を忘れるほど俺が瑠依を大切にし、そして俺に惚れさせればいいだけだと、根拠のない自信によって彼女を手に入れようと決めた。