冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
当初の予定通り結婚に向けて早いペースで進めるのは難しいと悟った俺は、計画を変更することにし、一旦瑠依との関係をフラットにすると決めた。
お互いのおじい、おばあの決めた結婚だとはいえ、俺は瑠依と愛し合い、両親のように幸せな家庭を築きたい。
その為に、瑠依とはお見合い相手としてではなく、その日の出会いをきっかけに距離を縮め、気持ちを寄り添わせていこうと決めた。
そうでなければ、瑠依が俺に心を開くことも愛することもないだろうと思ったからだ。
今すぐ結婚することを無理強いせず、付き合いを続けながら、長期戦で攻めたほうがいい。
その意味もこめて『今すぐ結婚する気はない』と言ったのだが、瑠依に俺の真意は伝わっていなかったようだ。
俺としては、すぐにでも結婚したいと思う気持ちは確かにあったが、ぐっと隠した。
お見合いの席で瑠依と顔を合わせてからほんの数分の間に決めたその決断を、瑠依はどう思ったのかはわからないが、「今は結婚するつもりはない」と言い放った俺に向けた瑠依の表情は茫然としたものだった。
きっと、自分の気持ちは無視され、結婚に向けて周囲が勝手に動き出すと警戒していたのだろう。
俺の言葉にほっとしながらも、驚きを隠せずにいた。
決して冷たすぎることのない、整った顔に浮かんだ混乱。
それまで俺に対してなんの興味も持っていなかった彼女が、初めて俺に強い感情を持った瞬間。
『それでいい』
そう思い、心の中でにやりと笑った。