冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



「ただいま、奥さん」

熟睡している瑠依の唇にそっとキスを落とし、涙が残る目じりをそっと撫でる。

「泣くほど、俺との結婚が嫌なのか?」

二人でいる時には明るい笑顔で言葉を交わし、お互いの生活を滞りなく進められるように、仕事まで辞めると決めて努力している瑠依。

けれど、時折見せる切ない表情からはこの結婚への後悔も見て取れる。

「俺が嫌いなのか?泣くほど、後悔しているのか?」

小さく声にして瑠依に問いかけても、彼女からは何も反応はなく、その事に安心する反面、苦しさも感じて、俺はじっと見つめるだけだ。

それなりの時間をかけて瑠依を知り、気持ちをかためた俺と違って、突然持ちこまれた結婚を否応なく受け入れた彼女にとって、俺の存在はどんなものなのだろうか。

その言葉や態度からは、俺を心底嫌っているという感情は見えない。

それでも結婚となれば、軽い好意だけで進められるものではないだろうし、瑠依だって結婚に対して夢を持っていただろう。

おばあと瑠依のおじい様の願いを叶える為だけの結婚に、瑠依が二の足を踏んだとしても仕方がない。

言ってみれば、自分の気持ちをおし殺した結婚。

自分が愛する人から愛されるという幸せをあきらめなければならない結婚だ。

瑠依の境遇を考えれば、彼女が自分の家族を作り温かい毎日を過ごすという願望を持っていてもおかしくはない。



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