冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
週末の百貨店は混み合っているに違いない。
ただでさえ乗り気でない気持ちがさらに沈んでいく。
洋服なら普段からおじい様がたくさん買ってくれるし、今では紬さんのご両親も何かにつけては贈ってくれる。
クローゼットいっぱいに掛けられた洋服を全て着るだけでも相当の時間がかかるというのに、更に買わなくてはいけないなんて、どんな拷問だ。
本当に、気が重い。
「私って、押しに弱かったんだな」
彩也子さんと待ち合わせをしている百貨店近くのカフェで、首に巻いたストールを整えた。
日ごとに陽射しが強くなるこの時期、紫外線を避けるためにストールを用意する女性は多く、私もその例にもれず。
結婚式直前の日焼けは避けたいという理由で、水色のストールを巻いているけれど。
……慣れないものを使っていると、肩が凝って仕方がない。
両肩を交互に動かしながら凝りをほぐすけれど、凝りの原因はストールの下に隠されている赤い華だ。
鎖骨あたりにくっきりと残された赤い華は、私の心臓を大きく跳ねさせるほどの力を持っていて、朝、鏡の前に立った私は硬直してしまった。
『……つ、紬さん……のせいだ』
鏡に映る、綺麗に赤く色づいたもの……いわゆるキスマークというものを睨みながら、ぽつりと呟いた。
その途端、ひょいっと洗面所に顔をのぞかせた紬さんの顔はにやりとしていて。
『俺のって印。ベッドで乱れる瑠依を見たら吸い付かずにはいられなかったんだよ』
そう言って私を背後から抱きしめた。