冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
昨夜の熱の余韻が再び私の体に広がりそうだと感じ、何度か首を横にふり、気持ちを逸らした。
そして、手元のグラスを手に取りアイスコーヒーを飲み干す。
喉の奥に広がる冷たさに、一瞬だけ気持ちは落ち着くけれど、それでも夕べの記憶はなかなか消えない。
鎖骨を隠すストールを首筋に感じながら、そっと手をあてると、今もまだそこに紬さんの指先があるように思える。
私が喘ぐ声をわざと引き出すような不規則で柔らかな動きに、追い詰められた。
視線を合わせることすらできなかった苦しい感覚を思い返しながら、照れくささと恥ずかしさにきゅっと目を閉じていると。
「お待たせ。どうしたの?具合でも悪いの?」
不安げな声が聞こえた。
はっと視線を上げると、探るような視線で私を見る彩也子さんが目の前に立っていた。
「顔が赤いけど、体調が悪いのかしら?」
「え?う、ううん、体調は悪くないし、元気元気」
「……そう?涙目だし、熱でもあるんじゃない?」
「涙目なんて、そんな、えっと……今、あくびをしたからかな。うん、ちょっと寝不足でね」
私の様子をうかがう彩也子さんから目をそらす。
ゆっくりと答えながらも、上ずった声に説得力はないなあと、焦ってしまう。
顔が赤いのはきっと、夕べの紬さんの表情や体温を思い出していたせいだ。
私の体のあらゆるところに触れた唇の感触を思い出してしまい、どうしようもない。
今も隣に紬さんがいて、私の足をすっと撫でるような感覚を覚えるなんて、どれだけ私は紬さんに囚われているんだろうか。