冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
気を取り直し、何度か瞬きを繰り返して紬さんの残像を追い払う。
「寝不足ね……。まあ、新婚さんだもの、当然よね」
くすりと笑いながら、彩也子さんは目の前の席に腰掛けた。
「し、新婚さんって……それはそうだけど、別に関係ない……」
関係ないこともないんだけど、と内心では思いつつ、首筋のストールに指先を這わせながら呟いた。
「ふふっ。私に隠し事をしても無駄なのに、かわいいわね。あら、人妻にかわいいなんて、失礼かしら?」
彩也子さんは、アイスティーを注文しながら、私を横目でちらりと見る。
「人妻って言われても、しっくりこないっていうか……まだ結婚式も挙げてないから」
実感はないんだけど。
と口の中で呟き、手元のカップを取るけれど。
既に飲み干したそれは空っぽだ。
「すみません、コーヒーのおかわりお願いします」
まだ近くにいた店員さんを慌てて呼び止めた。
「おかわりなんて、珍しいわね。かなり待たせたのかしら?」
「ううん、何だか落ち着かなくて、というか、えっと」
まさか、夕べの紬さんとの甘い時間を思い出して、ついつい飲んじゃったなんて言えるわけがない。