冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「瑠依ちゃんがそんなに顔を赤くして焦るなんて、珍しいわね。いつも落ち着いて淡々としているのに。紬さんに大切にされて、かわいくなったわ」
「な、そ、そんなこと……」
「ほら、慌てない慌てない。大きく動くと、ストールが落ちるわよ。
そうなると、瑠依ちゃんが隠したいものが見えちゃうけどいいのかしら?」
「か、隠したいこと……え?彩也子さん、まさか……」
私がストールの下に隠しているものを、彩也子さんは気付いているのだろうか?
うまく隠したつもりでいるけれど、滅多に身につけないストールのせいで、ばれてしまったのかもしれない。
胸元にさらりと落ちているストールの裾をそっと握りしめ、彩也子さんに視線を向けた。
彩也子さんは、小さな頃から見慣れている優しい目をしていた。
「見せて、なんて野暮なことは言わないけど、きっと私の想像は間違ってないわよね。
ストールの下にはいくつの華が咲いているのかしら。
ストールで隠さなきゃならないほどの華を咲かせるなんて、紬さん、よっぽど余裕がないのね」
「彩也子さん、どうしてそれが」
「どうしてわかるかって?私は瑠依ちゃんが幼稚園に通う小さな頃から側にいたんだもの、なんでもわかるわよ」
余裕が含まれた声に、私はぐっと言葉を失い、彩也子さんを睨んだ。
とはいっても、恥ずかしさが大きすぎて、大した目力もないと思うけど。
そして、拗ねた子供のような声で呟いた。
「彩也子さんは、なんでもお見通しだから、嫌になる」
長い間、おじい様の秘書を続けている彩也子さんは、私がおじい様のもとで暮らすようになって以来ずっと寄り添ってくれている。
それこそ、突然の環境の変化に対応できなかった両親に代わって、母親のような愛情を与えてくれた。