冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



両親と離れて暮らす私が寂しい思いをしないように、業務時間なんて関係なく側に寄り添ってくれた彩也子さんには、今でも頭が上がらない。

彩也子さんがどんな恋愛を経験してきたのかはわからないけれど、今独身でいるということは、悲しい別れもあったはず。

その別れの理由が私でないとは言い切れない。

今私が紬さんに対して持っている愛情を、もしかしたら彩也子さんも誰かに持っていたのかもしれないし、その気持ちを捨てたこともあるのかもしれない。

彩也子さんの人生に、私の存在が影響していることは確かだ。

そのことが彩也子さんの幸せにつながっているのか、自信がない。

もしも、彩也子さんが私と出会わなければ、彼女は今よりもっと幸せだったかもしれない。

そして、私が自分を取り巻く環境を理解できるようになってからずっと、彩也子さんに罪悪感にも似た思いを抱いている。

ただ、最近ではそんな私の思いを揺らす、彩也子さんの変化を感じている。

彩也子さんの何かが大きく変わったというわけではないけれど、彼女の表情や言葉の端々から感じられる艶や情感。

そして、ふとした時に私にだけ見せる切なさや遠慮。

何年もの間、彩也子さんと同じ時を過ごしてきたからこそわかるその変化に、私は複雑な思いを抱いている。

そして、そこから至る一つの思い。




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