冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
きっと、慣れてる。
経験値の低い私でさえ、そう思えるくらいに江坂さんのキスは、気持ち良く思える。
江坂さんの胸を押し返すように置いていた両手を、気づけば彼の首に回して自分からも応えていた。
「ちょ、ちょっと婚約者ってどういう事よ、今は結婚しないって言ったでしょ」
私からもキスを返しながら、背中に回された江坂さんの手の動きにもどかしさを感じていると、傍らで仁王立ちしている女性が甲高い声をあげた。
「おばあ様の言いなりにはならないって笑っていたのに、それなのに、どうして!」
その言葉にびくっとして、思わず体の動きが止まった。
それまで江坂さんから与えられる熱と強引さに引きずられていた感覚がふっと正気を取り戻す。
絡まったお互いの舌の動きに酔っていた私の急な変化に江坂さんが気づかないわけもなく、意識がキス以外へと向いた私からそっと離れた。
とはいっても、私の体を抱き寄せている力はそのままで、私に体の自由が戻ってきたわけでもない。
「ちょ、ちょっと、離してよ。そんなにきつく抱かないでよ」
体をくねらせて、必死で江坂さんの腕から抜け出そうとするけれど、彼は笑いながら、ほんの少し腕の力を緩めただけ。
「だから、きついのっ」
振袖姿できつく抱きしめられると、本当に苦しい。
呼吸もままならない。