冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




単なる想像にすぎないけれど、それが彩也子さんの幸せにつながるのかどうかわからない。

恋愛や結婚だけが女性の幸せだとは思わないけれど、愛する人、大切に思える人と共に生きていけるのならそれはとても幸せなことだ。

紬さんと結婚した私が、その幸せと共に新しい一歩を踏み出したのは間違いない。

できることなら彩也子さんにも同じ幸せを、と願う気持ちに嘘はないけれど、その相手はもしかしたら……。

私が想像する相手が間違っていなければ、それは、彩也子さんの本当の幸せなのだろうかと、不安になる。

彩也子さんが私達親子に振り回され、犠牲になってきた長い時間にそろそろ区切りをつけてもいい頃だと思うのに、私の想像が当たっていれば、それは延々と続くこととなる。

「今度は何に悩んでいるのかしら?そんな落ち込んだ表情をしていると、新婚さんの甘い夜を過ごしたなんて思えないわよ」

「甘い夜って……それ、違うから」

考え込んでいた私に、彩也子さんがからかうように声をかけた。

何も悩みはないような、ひたすら私の結婚を喜んでいるような、表情。

もしも私の想像が当たっていたとしたら、それからの事は、その時に考えればいいのかもしれない。

とにかく、彩也子さんがこうして笑顔でいてくれる、そのことが、大切なのだから。

……これまで見てきたどんな彩也子さんよりも、最近の彩也子さんが一番綺麗だという事は、この際、胸の奥にしまっておこう。



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