冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
ウェディングドレスといい、色ドレスといい、甘いシルエットとこれでもかというほどのきらきら感。
乙女な雰囲気を好む紬さんが喜びそうなこのワンピース、どうしようかな。
自宅から結婚式場までの移動の時だけに着る服に、ここまで彩也子さんが気合を入れることに呆れる思いもあるけれど。
この状況に呆れるほどなら、彩也子さんがどれほど強引になろうとも、この場に来ることを断ることもできたはずだし、新しい洋服を用意することも断れたはずだ。
けれど、文句を口にしながらも、結局は彩也子さんが勧めるワンピースを目の前にかざして悩んでいる。
そのワンピースだって、普段の私なら絶対に手に取ることもないデザインだ。
流行に左右されない、あっさりとしたデザインのものを好んで着ている私には、リボンもプリーツも縁遠い。
パフスリーブなんて、どんなスイーツだ? と思わないでもないほどだ。
だから、彩也子さんから手渡されたと同時にそれを突き返さず、こうしてワンピースを目の前にかざして悩む自分に、戸惑う。
誰もが知っているお店の名前からすれ。
値札はついていないけれど、店内に並ぶ商品全て、かなり高価なものだろう。
ほんの数時間の為に、無駄なお金は使いたくはない。
大企業の創設者の孫だとはいえ、特に贅沢をして育てられたわけではないし、就職をしてからは、おじい様の家に住まわせてもらっているとはいっても自分の生活費は自分で賄っている。
そんな私には、今手にしているワンピースなんて贅沢以外の何物でもないと、わかっているのに。