冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
私には似合わないだろうと思っていた、かなり甘いデザインのワンピースに袖を通した時、それは私の体にさらりと馴染み、少しの違和感もなかった。
それどころか、これまで感じることがなかった新鮮な思いがわいてきた。
「このワンピースにする」
試着室から出た私をじっと見つめる彩也子さんも大きく頷き、私の門出の日の洋服は決まった。
照れくささを隠す様に俯き、スカートを何度も手のひらで撫でていると、早く紬さんに私の姿を見せたくなった。
紬さん好みのこのワンピース。
体が動くたびにしなやかに揺れる。
シフォン特有の軽やかさに触れるたび、私の気持ちは軽く、そして、勢いだけで進められていく結婚式への不安も消えていくように思えた。
既に入籍を済ませ、夫婦となった私と紬さんは、もう前を向いて寄り添っていくしかない。
そして、まだまだ覚悟を決めたわけではないとはいっても、私は紬さんの側で生きていかなければならないのだと、理解しているし、受け入れてもいる。
だから。
このワンピースを着て門出の日を迎えよう。
そう思い、すっきりと頷くことができた。