冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
お店に来るまでは、洋服を買うことにあれほど抵抗していたというのに、紬さん好みのワンピースを手にした途端、彼に喜ばれることだけしか考えられなくなっていた。
なんて自分は単純なんだろうとがっかりする気持ちもあるけれど、それ以上に心を占めるのは。
ただ、紬さんに喜んでもらいたいというそれだけの思い。
私も普通の女の子だったんだと実感し、お店にいる間中ずっと、心地よい照れくささを感じていた。
そして、顔を火照らせた私は彩也子さんの顔をまともに見ることもできず、いいようにからかわれた。
その後ワンピースに合う靴やバッグを選び、全て彩也子さんが買ってくれた。
自分で買うつもりでいた私は慌てて彩也子さんに代金を渡そうとしたけれど。
『娘を嫁に出す慶びに浸っているんだから、水を差さないで』
ふふっと笑い、一切受け取ってもらえなかった。
『こんなの序の口よ。瑠依ちゃんに赤ちゃんが生まれたら、もっと色々買うんだから、その楽しみも取り上げないでね』
どこか誇らしげな笑顔に私は胸が熱くなり、言い返すことも、お金を渡すこともできなかった。
『ありがとう……』
ひとこと、そう言っただけ。