冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
その後お店を出たと同時に、おじい様から彩也子さんに電話がかかってきた。
はじめのうちこそ私の写真を見たおじい様の嬉しげな声がスマートフォン越しに聞こえたけれど、次第に彩也子さんの表情が硬くなっていった。
何か問題でも起こったんだろうかと、不安を覚えていると。
「瑠依ちゃん、ごめんなさい。……ちょっと、トラブルが起きたようなの。すぐに行かなきゃならないから、ここで解散。食事も一緒にって約束していたのにごめんなさいね」
滅多なことでは動揺することのない彩也子さんが焦る様子に、私はただ頷くしかできなかった。
彩也子さんは、ちょうど百貨店の前の大通りを走っていたタクシーを停め、慌てて乗り込む。
彼女の横顔に不穏なものを感じながらも、私は小さく手を振って見送った。
「あ、今日買ったお洋服は、皺にならないように、ちゃんとクローゼットにかけておくのよ」
どこか無理矢理作ったような笑顔と明るい声に違和感を覚えながらも何度か頷いて、彩也子さんを乗せたタクシーが走り去るのを見送った。
おじい様は一体何を彩也子さんに伝えたのだろうか。
仕事上のトラブルだとは思うけれど、あの焦り方と、一気に悪くなった顔色からは、ただ事ではない何かを感じた。
おじい様に電話をかけて聞いてみようか……。