冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



そう思いながらも、彩也子さんが詳しいことを何も口にしなかったことを考えると、おじい様も私に何も教えてくれないような気がする。

おじい様にとって彩也子さんは、単なる秘書だけではない、強いつながりがある人だ。

おばあ様が亡くなり父が会社を去ったあと、彩也子さんがおじい様を公私ともに支えたと言っても言い過ぎではない。

社長室では仕事のフォローや段取りを完璧にこなし、会社の外では私の世話に時間を割いてくれた。

おばあ様がいなくなり、おじい様が自分の立場や境遇を考えた時、きっと孤独に苦しんだはずだ。

けれど、それを乗り越えて会社の業績を上げ、孫である私を育てた強さの源はきっと彩也子さんの心遣いだと、思う。

ふたりの絆を考えれば、彩也子さんが私に教えてくれなかったことを、おじい様が口にするとは、やはり考えにくい。

彩也子さんのことが気になりながらも、今の私は何もできないと肩を落とし、駅に向かって歩いた。


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