冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
ふと、手にしている彩也子さんと選んだワンピースが入っている紙袋が視界に入った。
ワンピースだけでなく靴やカバン、アクセサリーまでもが入っているそれは意外に重い。
『ご自宅にお届けしますよ』
お店の人にそう言われたけれど、自分の手で大切に持って帰りたくて断った。
普段の私なら絶対に身に着けることのない、かわいいワンピース。
自分には似合うわけがないと思っていたのに、いざ身にまとってみると驚くほど体に馴染んだ。
そのワンピースを手にしているだけで、気持ちが弾むから不思議だ。
きっと紬さんの好みど真ん中に違いない。
目を細めて喜んでくれるはずだと思い、口元を緩めながら、駅に向かって歩いていると。
通りすがりに何気なく覗いたカフェの中に、大切な人の姿を見つけた。
今日、試着室の中で何度もその顔を思い浮かべた人が、そこにいた。
「紬さん……」
今、一番会いたいと思っていた人。
思わず立ち止まり、その端整な顔から目をそらせずにいると、紬さんは一人ではないことに気づく。
「え……どうして……」
鼓動はとくんと跳ね、痛みを覚えた。