冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



紬さんは頬を緩めてニヤニヤしているように見えるけれど、一体何を見て笑っているんだろう。

私がホテルでウェディングドレスを試着した時にも紬さんは今と同じように表情を緩めて笑っていた。

何着ものドレスを順に試着して疲れ果てていたあの日の私は、紬さんが見せる優しげな表情に誘われるようにこの体を預けた。

紬さんの方が疲れているはずなのに、私を気遣い、いたわるように抱き寄せてくれた時、紬さんに守られているようで落ち着いた。

私の体をすっぽりと包み込む紬さんの温かさに、意外にもほっとして眠くなったことを思いだす。

今、窓越しに見える紬さんの表情は、あの時に見せられたものと同じ。

どこか照れくさそうで、そして自慢げ。

相変わらずタブレットから視線をそらすことなく、傍らの女性と親しげに話している。

遠目からでも綺麗な人だとわかるその親しげな女性には、見覚えがある。







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