冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



というよりも、かなり印象深い出会い方をしたせいか、この先忘れられるとも思えない。

「そっか。ホテルであれだけの騒ぎを起こしたのに、今も二人で会っているんだ。……なんだ」

小さく息を吐きながら、ぽつりと呟いた。

私と紬さんのお見合いの場に乗り込んできた彼女、理美さん。

どうして彼女と紬さんが肩を寄せ合い楽しげに笑っているのかわからないけれど、紬さんにとって、彼女は単なる元カノや友人というだけの関係ではないらしい。

ふたりの間に漂う空気には、親密な何かが感じられて、胸が痛くなる。

お見合いの席で理美さんが見せた強い感情には、紬さんに対する遠慮のなさが感じられたし、決して短い付き合いでは生まれることはないだろう絆も見えた。

「仲……良さそう」

認めたくはないけれど、二人は仲がいいに違いない。

通りに面した窓からじっと二人の様子を見ていると、食事中のお客さん何人かが私に気付き、怪訝そうな視線を向ける。

はっと我に返った私は、作り笑顔を浮かべながらそっとその場を離れ、再び駅に向かって歩き出す。

何事もなかったように歩きながら、紬さんと理美さんの様子をもう一度見ようと店内に視線を戻すと。

不意に顔を上げた紬さんと、目が合った。

瞬間、大きく見開かれた紬さんの瞳。

そして、そんな紬さんの様子に違和感を覚えたのか、彼の視線を追って振り返った理美さんも私の姿をとらえた。



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