冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
ほんの少し、というより、かなり寂しい。
そんな自分に戸惑っていると、離されたと思った紬さんの手が、私の腰に回されぐっと抱き寄せられた。
「え? 紬さん、ちょっと」
思いがけなく抱き寄せられ、私の頬は紬さんの胸の温かさを感じている。
慌てて視線を上げると、紬さんの整った顔があまりにも近い位置にあり、はっとした。
先週、たまたまふたりで立ち寄ったお店で私が選んだブルーのポロシャツを着ている紬さんに、こんな時なのにどきりとしながら。
「こうしていれば人とぶつからないだろ?」
「え? あ、そ、そうかな」
「的外れな直感と勘違いで自分を追い込む瑠依ちゃんは、こうして俺が捕まえていないとどこに逃げ出すかわからないからな」
紬さんは、額と額をこつんと合わせて、くすりと笑った。
その甘い仕草が照れくさくて俯きそうになるけれど、動くとポロシャツにファンデーションをつけてしまいそうでじっとしていた。
そんな私の様子に満足げな息を吐いた紬さん。
「やっぱり、実物の瑠依の方がいいな」
「実物?」
「ああ。瑠依が綺麗だっていうのは、画面からでもちゃんと伝わるけど、実物はこんなにかわいくて鈍くて……頑張り屋だよな」
「な、何を、突然……」