冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「どうした?」
「え?」
歩みを止めることなく私の顔を覗き込んだ紬さんは、心配そうに呟いた。
私は黙り込み、ひたすら足元を見つめて歩く。
そんな私を訝しがる声を耳にしても、何も答えられない。
紬さんの態度がおかしいと思う私の方がおかしいのだろうか?
理美さんとふたりで楽しげに過ごしていた場所へわざわざ私を連れて行こうだなんて、それもこうして私を無理矢理掴まえてまで。
とりあえず、一応、妻である私と、別れた……と信じたいけれど、過去の恋人。
そのふたりを会わせることに抵抗なんてないように思えて、納得できない。
「えっと……理美さんって」
どうして彼女と会っていたのか恐る恐る聞いてみるけれど、それ以上を続けられない。
紬さんへの気持ちが甘いものへと変わりつつある今、はっきりと二人の関係を告げられるのが怖い。
私との関係も、「家同士の繋がり」だけを重視したものだと実感させられそうで、切ない。
そんな私の気持ちをどう思っているのか、肩をすくめただけの紬さんからは何も読み取ることができない。
おまけに私の様子を楽しんでいるようにも見えて、むかつきながらも。
恋愛に不慣れな自分がもどかしい。
そして、悔しい。