冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
気付けば、私は理美さんが待っているカフェの前に立っていた。
紬さんは、私の腰から手を離さないまま躊躇なく扉を開ける。
「あ、あいつ……まずい」
お店に入った途端、紬さんは焦った声をあげた。
どうしたんだろう、と見上げると、チッと舌打ちをした紬さんが私の背を押しながら理美さんの待つテーブルへと向かう。
すると、私たちに気付いた理美さんがにやりと笑い、タブレットを両手で持ったまま立ち上がった。
「理美、勝手に見るなよ」
荒々しい声で、理美さんの手からタブレットを取り上げようとする紬さんの手をするりとかわし、彼女はタブレットの画面を私に向けて差し出した。
「このワンピース、すごく似合ってるよ。ウェディングドレス姿もこの前見せてもらったけど、どれもこれも紬好みだよね」
「え?ワンピース?」
「瑠依、見るな……理美も、それ返せよ」
「いいじゃないの、さっきまでこれ見てデレデレしていたくせに」
「理美っ、お前いい加減に………」
「うるさいのよ。照れる顔もいいけど、それは二人きりの時にとっておきなさい。で、瑠依ちゃん、これ見て見て」
理美さんの勢いに気圧されるように覗き込むと、タブレットに映っているのは、さっきまで彩也子さんと一緒に選んだワンピースを着た……私だ。
ちょうど試着室から出てきた私を、彩也子さんが嬉しそうに何枚も撮っていた写真。