冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「俺は、次期社長だという立場のせいにして、望む未来を諦めたり、好きでもない女と結婚するほど弱い男じゃない。それに、……瑠依の気持ちが俺になければ、時間をかけてでも俺に向けるだけだ」
「紬さん……」
「きっかけが政略結婚だとしても、お互いが幸せならそれでいいだろ?瑠依が細かいことをあれこれ悩むのも、俺との関係に不安を持っているのも、正直ばかばかしい。いい加減、腹くくって俺と幸せになれよ」
淡々と話す紬さんの声に、驚きを通り越して呆然としながら聞いていた私は、指先をぴくりと動かす事もできず、紬さんから目が離せない。
思いがけない、そして、それは自分をとても幸せにする言葉。
信じられなくて夢のようで。
「な、泣きそう……」
ぽつりと口にした言葉は震えていて、目の奥がじんわりと熱い。
このままだと、数秒後には涙が頬をつたいそうだ。
紬さんは私の声に苦笑し、そっと指先で私の頬をなでてくれた。
こんな時なのに、指先からは優しさより荒っぽさが感じられて、紬さんも照れているのかと、ふと思う。
「泣きそうって、もう、泣いてるぞ。……泣くなら、もう少し我慢しろ。家に帰って、俺に抱かれる時に泣け」
「つ、紬さん……」
「くくっ。今更俺の気持ちを知って、どうする?あれだけ好きだって何度も言っていただろ?」
「だ、だって……」
「だって、本当に自分の事が好きなのか自信がなかったって?」
「……う、うん」
私の顔を覗き込み、楽しそうに笑い声をあげる紬さんに、小さく頷いた。