冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




大変、確かにそうだ。

けれど、紬さんがここまで素直に自分の思いを口にしてくれて、心は温かく、嬉しくてたまらない。

「俺は瑠依の買い物が終わるのをここで待っていたんだ。これからは俺達二人の時間だから、理美はとっとと帰れ。えっと、だれだっけ? たか……じゃねえや、そんな名前の男。恋人だろ? アイツの所に行って可愛がってもらってこいよ」

相変わらず理美さんを追い払おうとする言葉も、ちょっと幸せを感じたりする。

理美さんには申し訳ないけれど。

「たか、じゃなくて、わし。鷲尾くんね。紬よりも何倍も素敵な鷲尾くん。
そうね、私がどう画策しても紬と瑠依ちゃんは離れてくれそうもないから、私は鷲尾くんに会いに行こうかな」

恋人のことを思いだしているはずなのに、理美さんの顔はどこか苦しげに見える。

綺麗な顔には違いないけれど、笑顔が硬く見えるのは気のせいだろうか。

理美さんは、私のそんな思いを察したのか、はっとしたように大きな笑顔を作ると、慌てて鞄を手に取った。

「あ、伝票はよろしくね。ここで偶然会ってからずっと瑠依ちゃんの綺麗なドレス姿を見せられて紬にのろけられていたんだから。一番高いケーキでも食べておけば良かったな」

理美さんはふふっと笑いながら私たちに背を向けて急ぎ足でお店を出て行った。

「のろけて……たんだ?」

相変わらず私の肩に腕を置いた紬に、問いかけると。

「のろけていたわけじゃない。俺の嫁さんは綺麗だろ? って自慢していただけだ」




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