冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「そうかあ。葉月さんは仕事がそんなに好きなんだねえ。そっかそっか」
「そうですよ。入社5年目でようやく責任のある仕事を任せてもらえるようになって、やりがいを感じられるようになったんですから、結婚なんて考えられません」
「でも、いい男なんだよね。製薬会社で研究をしていてね、真面目だし稼ぎもいいし、それに見た目だって抜群だよ。男の俺が写真を見てもいい男だって惚れ惚れしたしね」
「それほどのいい男なら、私なんか相手にしてもらえませんよ。社内には私よりも綺麗で性格もいい魅力的な女の子がいっぱいいますから、このお話はそちらへどうぞ」
たたみかけるように言い、一気に逃げ切る気持ちで笑顔を作った。
近田部長だって、私にこだわらなくても社内には女の子がたくさんいるってことを思い出せば、こんなばかな思いつき、忘れるはずだ。
そろそろ席に戻って昼からの会議の準備をしたいんだけどな。
そんな事を考えながら、どのタイミングで逃げ出そうかと考えていると
「うーん、でもなあ、葉月さんが行ってくれないと、俺も困るんだよね」
「は?」
「葉月さんがお仕事大好きで楽しくやっているってのはよーくわかったよ。
これからも、たくさんの事を吸収して、わが社初の女性役員を目指してくれても構わないよ。その頃僕は定年退職しているだろうし、葉月さんの出世に嫉妬して、妨害作戦練ったりしないから」
「妨害作戦……?」
椅子の背もたれに体を預けて、腕を組んだこのタヌキおやじ、いや、近田部長は、何かを考えるように小さく息を吐いた。
……どうせつまらない事だろうけど。
「まあ、妨害作戦の事は忘れて。とりあえず、葉月さんが行ってくれないと、わが社の今後にも影響が出るんだよね」
「……意味がわかりません」
「だよねー」