冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
その後、犯人の男から逃げようと暴れ、打撲と擦り傷があった私は、救急車に乗せられて病院へ搬送された。
そして、警察から連絡を受け、病院に駆け付けたおじい様に
『瑠依にもしものことがあったら……』
と泣かれてしまったのだ。
結果的に未遂で終わったとはいえ、それ以来、私は恐怖と不安を心の奥底に抱えている。
そして、ふとした時に顔を出すやっかいな感情と闘っている。
当時のことを思い出せば体が恐怖に震え、いやらしく笑っていた犯人たちの口元が浮かんでくる。
普段はその記憶を封印し、思い出さないようにしているけれど、何かのきっかけでその記憶が蘇った時には、その苦しみに耐えながら過ごす。
寒くもないのに体温が下がっていくように震え、吐き気も感じる。
今も自分で自分の体を抱きしめ、苦しい時間が過ぎ去るのをただ待っている。
耐えて耐えて、やり過ごすことでしかこの苦しみに向き合うことができない。
何度も経験しているつらい時間だとはいっても、慣れる事もない。
「瑠依、おいで」
ぎゅっと目を閉じ、自分を取り巻く世界から意識を隔離させていると、ひざ裏に紬さんの手が差し入れられた。
「え?」
ふわり、抱き上げられる。