冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
体を重ねるようになって、紬さんの体温や肌を自然に受け入れられるようになった。
こうして密に触れ合っていても、照れることなく呼吸もできる。
重苦しい過去の記憶が胸の中に居座り、震えはまだ止まらないけれど、深く呼吸を繰り返すうちに落ち着いてくる。
紬さんの胸の中にいるだけで、苦しみが半減されるようだ。
痛みと冷たさが満ちる体が、徐々に解凍されていく。
もうしばらくこのままでいれば、私の気持ちも落ち着いてくるはずだけれど、紬さんに包まれるこの時間を手放したくない。
紬さんの想いが注がれるような、夢見心地のこの時を、少しでも長く味わっていたい。
つらつらとそんなことを考え、目を閉じていると。
小さく息を吐いた紬さんが、私を抱きしめたまま言葉を落とす。
「偶然だとはいっても、理美に会わせて、過去を思い出させてしまって悪かった。俺と理美の関係を話せば、瑠依の幼い頃の話が出てくる可能性もあったのにな」
後悔が滲む声に、ぴくり、私の体が揺れた。