冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
いざという時に役に立つようにと護身術も身につけたとはいえ、本当に何かがあればどうなるのかわからない。
きっと、私が「葉月」という家に生まれた限りこの状況は変わることはないんだろう。
そして、そんな私はおじい様にとっての弱点なのだ。
私に何かがあれば、きっとおじい様はおじい様でなくなってしまう。
大企業の総帥である前に、孫を慈しむひとりの優しいおじいちゃん。
たとえそのやり方が突拍子もないものだとしても、いつも私を気遣い、愛し、盾となって守ってくれる素敵な男。
口に出して言うなんてこと、恥ずかしすぎてできないけれど、私には自慢のおじい様だ。
後継者として育ててきた長男が事故で亡くなり、それまで会社とは全く関係のない生活を送っていた二男である私の父が急きょ呼び戻され、次期社長として据えられた。
その当時3歳だった私にはっきりとした記憶は残っていないけれど、それまでのどかな郊外で絵を描く父の周りを走り回っていた毎日が、一変したことだけは覚えている。
おじい様に呼び戻されたあとの父の顔からは表情がなくなり、まるで意志のない人形のような父が怖くて泣きじゃくった記憶も残っている。
おじい様にとって唯一の息子となった父の精神がどんどん病んでいき、それに比例して私も不安定になっていく。
そしておじい様は必要以上に私を可愛がり身の安全に心を砕くようになった。
そのことが周囲に知られれば自分の弱点となることも構わずに、私のことを愛し続けてくれた。