冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




それは今でも続き、私が幸せになることだけを生きる糧としているといっても大げさではない。

複雑な環境で育つことになった私を一生懸命守ってくれたおじい様。

だから、できることならおじい様が望む人と結婚して、おじい様に恩返しがしたいとは思うけれど、やっぱり無理なのだ。

その人を心の底から愛し、側にいたいと望み、そして私の事も同じように愛してくれる男性と結婚したい。

綺麗ごとだと言われても、愛情を潤沢に与えてくれる男性でなければ、将来を共にすることはできない。

だから、たとえおじい様のお願いだとしても、江坂さんとの結婚を受け入れるわけにはいかないのだ。

「おじい様の思い出の結実のために私は結婚する気はないから。たとえ報われなかった恋の残骸を拾い集めて、再び桃色の恋愛気分を味わおうとしても、その残骸を押し付けられた私はたまったものじゃない」

おじい様にそう言って頷くけれど、おじい様は「んー、そうはいってもなー」と軽く呟いてへへっと笑っている。

力の抜けた笑顔を見せられて、私はぐっと気持ちを引き締めた。

こういう顔をしているおじい様は、何を言われても聞き流すだけで、自分の思いをひたすら貫くと決意しているとわかるだけに、私も臨戦態勢をとる。

私だって、何を言われても、説得されても、絶対に折れない。

胸の中でそう繰り返し、小さく頷いた。



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