冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
「理美の本当の気持ちは、正確にはわからないけど。理美は、修の幸せを考えているんだと思う。自分と一緒にいるよりも、修には共に江坂を背負っていくにふさわしい女性と一緒にいた方が幸せになれると、そう考えたんだ」
「え?ふさわしいって、どういう人?」
「んー。江坂の本体は俺が社長に就いて引き継ぐことになるけど、修だって、江坂の人間だ。
侑平さんと違って、修は江坂を背負うことにやりがいを感じているから、会社の中枢に入って経営にも携わりたいらしい。だから、大きな企業グループの経営陣の一人として生きていく修のことを支えられる強さを持った女性……が、修には必要だって、理美は思っているんだ」
言葉を選びゆっくりと話す紬さんからは、理美さんがそう思っていることを納得していないように見える。
社長として大企業を背負う紬さんを支えていく私と、修さんが将来結婚するであろう女性の立場は似たようなもの。
だから、理美さんが修さんの結婚相手に強さや覚悟を求めることは理解できる。
「でも、それ以上に大切なものがあるでしょ?」
「……だよな?」
「うん。相手を愛する気持ちがなかったら、どれだけの強さと覚悟があっても支えることはできないよ」
私と紬さんは、ようやくお互いの気持ちを寄り添わせ、これから幸せになろうと確認し合ったばかり。
これまでは……紬さんの見た目の良さも手伝って、きっと私以外に愛する女性はいるだろう、きっとそれは理美さんだと思い込んでいた。
そのせいか、自分の中に育まれつつあった紬さんへの愛情に気付かないふりをしていたけれど、それでも彼の側を離れたくなかった。
「理美さんと修さんがお互いを愛しているのなら、それこそ修さんの未来を支えるために一番必要なものなのに」
どうして理美さんは修さんを愛しながらも他の男性とつきあっているんだろうか。
片思いではなく、両想いなのに。