冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う

私は紬さんの膝の上からおり、足早に動いてスマホを手にした。

「そういえば、昼間慌てて帰ったけど……何かあったのかな」

呟きながら、重苦しい気持ちが胸に溢れるのを感じた。
、
自分の感情を滅多なことでは顔に出さず周囲への気配りを忘れることのない彩也子さんが、慌ててタクシーに乗り込んだ後ろ姿を思い出す。

私を残し、あっという間に去って行った。

なんだか、嫌な予感がする。

視線を紬さんに向けると、私の様子に不安を感じているのか、ゆっくりと私の側に来てくれた。

そして、鳴り続けるオルゴールの着信音に急かされるように、スマホの画面をスライドさせた。

「もしもし……彩也子さん、どうしたの？」

私の不安がそのままのせられた小さな声。

私の声に、傍らの紬さんも怪訝そうな表情を作る。

そして。

私の耳元に落とされたのは。

『瑠依ちゃん、お父さんが……』

明らかに泣いているとわかる、彩也子さんの震える声だった。