冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
くすくすと笑い、「俺のかわいい奥さん、言って欲しいんだけどなあ」と続く言葉が、私は恥ずかしくてたまらない。
一気に熱くなった頬を意識しながら黙り込んでいると、まだまだあきらめる様子のない紬さんは、信号待ちで車を停めた途端、私の顔を覗き込んだ。
「いつでも俺は瑠依を幸せにしようって考えてる。で? 瑠依は?」
「ち、近すぎるって……」
あまりにも近くにある紬さんの顔から逃げるように体を助手席に預けると、それを追うように紬さんが近づいてくる。
素早くシートベルトを外す音が聞こえる。
「ほら、信号が変わるから、早く言えよ」
「早くって、そんなの恥ずかしいし……」
「俺しか聞いてないだろ?それに、瑠依が恥ずかしいって思う言葉なら、それを聞くだけで俺は幸せになれるんだけどな」
前方の信号をちらりと見た紬さんは、私の答えを催促するように唇を重ねる。
驚く間もなくその温かさが離れ、紬さんの舌うちが聞こえた。
「時間切れ。まあ、恥ずかしがる瑠依も可愛いし、いっか」
そう言いながら体を運転席に戻し、再びシートベルトを着けると同時に信号が青に変わった。
「病院まですいてるみたいだな。お父さんの顔を見るまで安心できないだろうけど、大丈夫だから。
彩也子さんも側にいるし安心してろ」
「うん」
「それに、瑠依の旦那さんは、意外に頼りになる男だからどんと構えてろ」
紬さんは、否定の言葉は一切受け取らないとでもいうように、私の頭をくしゃりと撫でた。