冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




その手はあっという間にハンドルの上に戻ったけれど、私の不安を取り除いてくれるような乱暴な動きに心は満たされる。

ほんのちっぽけな会話、そして、些細な動き。

それだけのことなのに、どうして紬さんに与えられるものは全て大きく響くんだろう。

今までだって、揺れることすら認めないほど強引に私の気持ちを縛り、それだけでは物足りないのか紬さんが願うように事は進められ。

いつのまにか、私は紬さんの虜になってしまった。

私を離さないと、幸せにすると。

これでもかと私の気持ちを甘く溶かす言葉を積み重ねては、結婚にひたすら向かい。

私は、その慌ただしい流れから逃げ出すという選択肢を、自ら手放した。

紬さんを好きになり、この先もずっと寄り添いたいと願うようになった。

そして、紬さんが示した道筋通りに私は進んでいる。

それが、「江坂瑠依」となったということだ。

私を幸せにしてくれると、自信に満ちた言葉で約束してくれる。

今もはっきりとそう言ってくれた。

そんな紬さんが愛しくてたまらない。

お父さんの緊急事態だというのに、私の気持ちは紬さん一色なのだ。



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