冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
骨折した足の手術を終えた父さんは、頭部や顔にも傷があるようで、包帯がぐるぐると巻かれていた。
まだ麻酔から醒めていないのか目は閉じられたままだ。
左腕に刺された点滴に気付き、目の奥が熱くなった。
「父さん……」
思わず駆け寄り、ベッドの横に膝をつく。
近くにいた彩也子さんが、私のためにそっとその場から下がったのに気付いたけれど、しばらくぶりに見る父さんの痩せた顔から目が離せない。
絵描きとしての毎日を楽しんでいた頃の綺麗な長髪をばっさりと切り、サラリーマンらしい髪形にしたけれど、いつまでも馴染めずにいる父さん。
今も、すっきりと短く揃えられた髪の毛が、包帯から幾つか飛び出している。
ほんのり茶色く染められているのは、自分の人生を思うがままに生きることを許されない父さんの、せめてもの反発なのか。
いつも大らかに笑い、目じりを下げた緩やかな顔は、その面影もなく厳しい目元を作り。
私を温かく包み込んでくれた腕は、骨ばかりが目立つほどやせ細ってしまった。
おじい様から家に呼び戻されて以来、父さんが背負ってきたプレッシャーと、それに耐えられず逃げ出した負い目によって、父さんは変わり果ててしまった。
おじい様の元で過ごす私と会う機会を作ろうともせず、唯一自分の居場所となった子会社でどうにか仕事を覚え、会社員として自立しようともがいていた。
絵を描くことしか知らなかった父さんにとって、パソコンの使い方を覚えることがどれだけ大変なことか、わかっていたはずなのに。
そして、愛する母さんと別れたことが、父さんの心をどれほど大きく傷つけたのか気づいていたはずなのに。