冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
私は自分にばかりに目を向けて、どれほど自分は可哀そうなのかと憐むばかりだった。
そして、苦しみから逃げ出せずにいた父さんを気遣うこともなかった。
紬さんとの結婚も、おじい様や彩也子さんから伝えてもらい、娘である私からは何の連絡もしなかった。
それどころか、結婚式に来て欲しいと、自ら声をかけることすらしなかった。
苦しげに閉じられている目元のしわが、私を責めているように思える。
「父さん……、ごめんなさい……」
シーツの上に力なく投げ出されている手をそっと握り、顔を寄せた。
以前は絵具の匂いに包まれていた指先。
荒く整えられた爪の間からはその名残も何も、感じられることはない。
最後に抱きしめられたのはいつだったのかも思い出せないほどだ。
「瑠依……」
私の隣に立った紬さんが、私の肩をそっと撫でてくれた。
「そろそろ麻酔から醒めるらしい。時間はかかるけど、ちゃんと歩けるようになるから、大丈夫だ」
茅人さんの声に、私は小さく頷いた。
「ねえ、交通事故って、どういうことなの?父さん、運転免許は持ってないから、ぶつけられたの?」
そっと後ろを振り返り、彩也子さんと、紬さん、そして茅人さんに視線を向けた。