冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
父は絵を描くことにしか興味がなくて、運転免許も持っていなかった。
おじい様の会社で働くようになってからも、仕事を覚えることに必死で、教習所に通う時間があったとは思えない。
だから、父さんが被害者になることはあっても加害者になるとは思えない。
「どうして父さんは、こんな目に遭ったの……?」
父さんの状況がよくわからないまま視線をさまよわせていると、彩也子さんが口を開いた。
「瑠依ちゃんが言うように、お父さんが乗った車は、ぶつけられたのよ。……社長になりたいと願うおバカな男にね」
「……え?」
「葉月グループを率いるおじい様が引退されたあと、誰がその跡を引き継ぐのか、この数年は醜い争いばかりだったわ」
まっすぐにおろした手をぐっと握りしめ、悔しそうに呟く彩也子さん。
けれど、ベッドの上の父さんに向ける視線はとても優しげで、私が察していた通り、彼女はきっと父さんを愛しく思っているのだろう。
父さんの枕元にしゃがんでいる私の横に立ち、じっと父さんを見つめている。
「瑠依ちゃんにはいつか話さなければいけないって思いながら……みんな、その日を先延ばしにしていたの」
「先延ばしって、え? それに、みんなって、えっと、みんな?」