冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
『瑠依、ごめんね。母さんは、社長の奥さんになんてなれないの』
おじい様の家から去っていく母さんの背中は震えていた。
私と離れることを決して望んでいるわけではないとわかっていたけれど、父さんと私と一緒に暮らしていくことを拒んだ母さん。
学生時代からの付き合いだったふたりの繋がりは、「葉月」という大きな組織の前では無力だった。
父さんには、「葉月」の後継者という重荷を背負っていく覚悟はなく、母さんには、そんな父を支える強さはなかった。
そして私には、両親を繋ぎ止めるだけの力はなかった。
子供ながらにそのことを感じとり、どう折り合いをつけていいのかわからず混乱する私を、おじい様は今と同じように優しく頭を撫でてくれた。
おじい様にも、自分が父さんと母さんを引き裂いたという負い目もあったんだろうけれど、その時の私には、おじい様の手が全てだった。
孤独に震えた心を凍らせることなく、ちゃんと生きてこられたのも、この手のおかげだ。
小さな頃と変わらない温かさが、私を優しく包み込む。